2003.05.23.fri.cloudy

 水槽のアシカは足ひれが片方無かった。

『可愛がってくれる飼育係のお姉さんがおったんです。
 掃除のときなんか、私はしっこで、ああ掃除しとるなあと見てるんですよ。こう、ごろんとしながらね。ほんだらお姉さんが寄ってくるから、掃除のブラシに絡んでみたりするでしょ、ブラシわざと小刻みに動かしたりしてねえ、遊んでくれるんですよ。
 だいたい二人くらいで交代で面倒見てくれるんやけども、お姉さんのときは楽しかったなあ。

 楽しかってんけど、ある日ね、思ったんですよ。自分みたいなんと遊んで何が楽しいんかなあと。格好いいアシカとか芸の出来るアシカとかいっぱいおるのに。
 だからね、私、そこの岩あるでしょ。あれに足ばしばし当ててみたんです。ずうっと。こないしたら変なアシカになるから、お姉さん遊んでくれへんなるんちゃうかと思って。
 そら、それでも遊んでくれるやろう思てましたけどね。でもなんか、ちょっとちゃう感じになるんかなあと思ってたんです。
 痛いことはないんですわ。お姉さんどんな顔するやろかってそればっかり考えてるから。こう、機械的な感じでね、ばしばし当てとったんです。
 ほんだら次の日ですわ、起きたらね、足かたっぽ無いんですよ。私もびっくりしましたねえ。ほんでもまあ変なアシカにはなれたんです。

 お姉さん、係変えられましたよ』