今年の夏、結局スイカはそんなに食べられなかった。いや普通に好きな人よりは食べたかもしれないけれど、スイカだけは、スイカだけはバカほど食べたかった。
 スイカは適当に切ったのを二三センチの角切りにして食べる。しゃらくせえと言われようが、こればっかりは譲れない。
 だからガツガツ食べる芸能人を見てもどうでもいい。どうでもいいけどあれは裏がくりぬいてあるらしいのでスイカ嫌いでなければ誰にでも可能、芸ではない。
 閑話休題、美味しく食べるには幸せに食べなければならない。つまり君は器に入った角切りのよく冷えたスイカの香りで恍惚に浸れるかという話で、たぶんこの私は赤い食べ物バカなのだ。
 赤い食べ物バカであるところの私は、小さいころ「ニンジンスティックが呼んでいる」症候群にかかり、さっそく一本分のニンジンスティックを作ったものの、スティック一本で脱落した前科がある。残りは黙って冷蔵庫に葬った。今ニンジンに対して愛を感じられないのはそのせいな気がしないでもない。
 我が家はその昔なぜか春になるとイチゴを箱買いしていたので、私の誕生日はケーキがイチゴのショートケーキであることが多かった。ある年に、思い立ってバカほどイチゴを乗せてみた。つまりそれは、中に一面イチゴを挟み、上に蔕を切っただけのイチゴを乗せ、周囲に縦半分のイチゴを貼りつけた、クリームは申し訳程度にしか見えないイチゴの呪いのようなケーキであった。満足した私はイチゴにも愛を感じなくなった。
 このような結果であるからして、おそらくスイカの場合も同じことが考えられる。スイカの方もそれを薄々は察しているらしく、なかなか思うようにはさせてくれない。手に入るかと油断すると翌日にはトウモロコシで応戦してくるような、実に駆け引きの上手いやつだが、そんなスイカが私は大好きなので、来年の夏もスイカに溺れるであろうことは間違いない。