084:『ほら男爵現代の冒険』星新一

 「ほら男爵の冒険」という物語をご存じだろうか。格式高い男爵の体験記なのだが、それがどうも、にわかに信じがたい出来事ばかりなのである。
 たとえばある日のこと。
 木陰でランチを食べていた男爵は、ぽろりと肉の脂身を落としてしまった。歩いてきた鴨がそれをぱくり。脂身はつるつると鴨の体を通ってお尻から飛び出した。これに目を付けた男爵は、脂身に糸を結わえ転がしてみた。するとまた鴨が現れ脂身をぱくり、つるり、飛び出した脂身を次の鴨がぱくりつるり。こうして男爵は何羽もの鴨を労せず手に入れたのだった。
 さて、「ほら男爵現代の冒険」である。怪盗ルパンで言うところの三世、先祖のおかげで人に話を信じてもらえない男爵の孫が、奇想天外な旅行をする物語なのだ。ある時は文明の及ばない熱帯へ、ある時は誰も知らない地下の世界へ、先祖から受け継いだ珍体験体質はいつも彼を悩ませる。
 星新一といえばショートショート。そのエッセンスを含みながら、より風刺・パロディを効かせた一冊。