085:『悪魔の種子』内田康夫

 花粉症緩和米の利権をめぐり米の開発者たちが殺害される。遺伝子組み換え食品の如何を問う、浅見光彦シリーズ。
 秋田県羽後町で夏に行われる西馬音内(にしもない)盆踊りで物語は始まる。端縫いと呼ばれる美しい継ぎ衣装に深く笠をかぶった女性と、彦三(ひこさ)頭巾と呼ばれる三つ目が貝の黒頭巾をかぶった男性が、お囃子に合わせて町を練り歩く姿は本当に幻想的なのだろう。しかしこの盆踊りの古くは、為政者の目をかすめるための継ぎ接ぎ衣装だったり、彦三頭巾は亡者役を示したりするそうなので、その二人が一緒に踊るというのは怪奇・暗部的な感じがする。
 遺伝子組み換え食品については長いスパンで経過を見たいと思っていたら、知らないうちに遺伝子組み換え食品を食べているらしい。最近は花粉症緩和米が実際に遺伝子の組み換えによって開発されているとのこと。この花粉症緩和米、食品による予防接種みたいなものと言っていいだろう。無意識に対花粉力をつけられるのは花粉症患者にとって魅力だけれど、自然なお米には含まれない成分が入っているのに、それを毎日食べるというのは不安だ。遺伝子組み換え食品を摂取し続けた百年後千年後に私たちは不自然な生き物になってはいないのだろうか。
 浅見がドン!更に須美ちゃんドン!雪江&兄さんチラリ、の今回。レビューを書こうと改めてページを繰り、物語の複雑さとデータの量に驚いた。ワンパターンだと言いながら読んでいたけれど、旅と歴史・社会と文化をワンパターンの糸で縫っていたんだと思う。